「石油をめぐる世界紛争地図」読了

 

石油というのは身近な資源になっているけれども、日本は産出国ではないので、どうやって獲得されているかはあまり良くわからない部分が多い。また石油マネーが産出国に与える影響も明らかになっていない。

 

その中でこの本は面白かったと思うのは、アメリカの石油をめぐる覇権主義(ブッシュJr.が石油会社の役員だった事にはふれてはいないが)、石油産出国の政治的不安定などに目配りができているところだろう。産出国はお金が儲かって、国が豊かになる反面、もうけの分配が王族や軍部に独裁されている状況から、格差や貧困が生まれ、政治的不安定をもたらしてしまっているようだ。基地や原発問題とも重ね合わせる事ができるかもしれない。

 

つまり産出国の貧困化であったり、不安定化は他国の資源消費に依存している状況であり、その比率は輸出で得られる利益の九割にもなるという(もちろんGDPとも連動しているそうだ)。脱却している国もあるけれど、サウジアラビアなどの輸出で有名なところは依存から脱却する事は難しいだろう。しかもサウジアラビアは9.11テロにおいて多数のテロリストの出身地でもあり、オサマ・ビンラディンの出身国でもある。石油マネーと政治的不安定の問題は結びついているのだろう。

 

もちろん、石油依存は環境を悪化させ、地球を温暖化させると考えられている。四分の三は石油系の物質を燃やして得られる二酸化炭素が原因で、温暖化が起きているとすれば、消費量を減らす事は人類共通の願いであるはずだ。だが、この本の執筆時点では、京都議定書は発効しておらず、暗礁に乗り上げられていたため、これからどういう風に環境への目線を定めていくのかはそこまで書かれていなかった。(現時点では発効しているらしい→ http://www.team-6.jp/about/kyoto_protocol/kyoto_protocol.html )

 

アメリカの石油への執着は問題として取り上げられているが、アメリカ自身は産油国でもあり、石油の値段の高騰は実はアメリカ国内において内需を発生させる事もあり得るという。そういう意味では、アメリカとアラブ側のOPECの利害が一致する事もあるのだろう。

 

資源問題は同時に地政学的なものである、という主張も本書に特徴的な事だと思う。確かに、今日の領土問題や独立問題は背後に石油資源の存在があるし、密接に絡んでいるようだ。北海油田などの開発で海から資源を調達する方法は確立されており、値段も安く抑えられるらしい(といっても個人では大金には変わりないけど)。中国との尖閣諸島問題も半分くらいは資源問題になると思う。

 

ロシアの資源を日本と中国どちらに送るか、ということも地政学的ではあるが、当時ロシアは日本側に天然ガスのパイプを通したいらしく、政治的、経済的な問題でもあるだろう。中央アジアの資源が欧州に運ばれているという話だけど、この問題に関しては中国と団結した方が地政学的には正しいと思われる。(しかしロシアは日本に天然ガスのパイプラインを通すという計画は中止と発表したそうだ→ http://japanese.china.org.cn/jp/txt/2012-07/04/content_25806128.htm 日本大丈夫か?)

 

独立問題については、最近自衛隊南スーダンに送られたけれども、あそこも石油が出るという事で紛争地になっているそうだ。日本の派遣もかなり石油を意識したものかもしれない。資源獲得競争に名乗りを上げるのは結構だけど、紛争地であるにせよ、もうちょっと平和的な路線で貢献してもいいとおもうのだが。。ひょっとしたら日本も石油が出てくる地域があれば、独立運動なんて動きになっていたのかもしれないですよね。そういう意味ではなくてよかったのかもしれないですが。どうなのでしょうね。