左翼はカムバックするか? 非暴力運動について

最近、あろうことか講談社現代新書から左翼に関する本が出た。

松尾匡さんの「新しい左翼入門」です。

内容はまだちょっとしか読んでいないので、他の人のレビューを見ていただくこととして、この出版自体が記念的だと思いました。

岩波とかはわりと左翼的なので一昔前は左翼関係の本には事欠くこともなかったのですが、講談社はいつから左翼の本を出すようになったのか、とびっくりしました。

新しい左翼像が模索されているんだな、と思いますが、さてそれではどういった左翼が求められているのかを、最近読んだ本から見てみたいと思います。

「デモいこ!」TwitNoNukes 編著

  <内容説明> デモの初歩的なやり方から実際、デモを企画し、実現させた人からのインタビューも含む。福島の原発事故とそれに伴う原発反対デモに刺激されて出版された本です。

 
「独裁体制から民主主義へ」ジーン・シャープ著

 <内容説明> 長い間、独裁体制から自由を求める運動を行っているグループについて研究している研究者の本。最近出版されたものだが、もともとは90年代に書かれたものを骨組みにしている。暴力によって自由を得ることはかえって危険ということを指摘し、非暴力運動を提唱した本。英文はインターネット上で公開されているので、こっちの方もぜひ。→ http://www.aeinstein.org/organizationsde07.html pdf→ http://www.aeinstein.org/organizations/org/FDTD.pdf

「文化=政治」 毛利嘉孝

 <内容説明> 実は「デモいこ!」にも考察をのせている毛利さん。この本は主に零年代の前半にしぼって書かれていますが、それでも刺激に富み、今のデモにもこの本の内容が生かされていると思います。いろいろと気づくことができました。

 

 さてこれらの本に共通するものはなんだろうか、非暴力直接行動主義だと思う。
 
 ただしそれぞれの本で温度差や主張、方法の食い違いはあると思われる。
 
1、服装の違い

 「デモいこ!」ではデモにいく時は服装に気をつけるようにという、注意書きがあるが、「独裁体制から民主主義へ」では腹を脱ぐという抗議方法があるとしている。また「文化=政治」では政治的な主張を行うカーニバルが取り上げられているように、祝祭的空間からの分析も行っている。どの本も服装は大事ということは変わらないのだが、結果がそれぞれ異なるというのも面白い。
 
2、非暴力直接行動を行う目的

 「デモいこ!」では明らかに反原発反戦などの主張を通すためなのですが、人間関係の構築にも役立っていると書いてあります。デモによって出会いやコミュニティが生まれ、それで人間的な生活にも幅が生まれる、というわけですね。「独裁体制から民主主義へ」は独裁体制打倒のために個々の抗議活動を考える必要があるという立場です。その場合も何が何でも独裁体制を倒せば良いのではなくて、民主主義の体制を作り上げることを達成すべき目的にしています。「文化=政治」では反体制武装組織のサパティスタを取り上げていますが、非暴力直接行動には慎重な考えであり、運動は参加すべきものではなくて、DIY(Do It yourself)的に自分たちで作るもの、と主張しています。

 これらはお互いで補い合うことができるかもしれないですね。

3、精神的に得るものはあるのか

 基本的に人間は享楽的な側面があると思います。なかなか精神の緊張ばかりではなんであれ、続きません。そこで、精神的にデモや非暴力直接行動によって得るものはあるのでしょうか。
「デモいこ!」ではデモに合流することで精神的な安らぎを得られる、としています。前項の友達ができる、というのもそうかもしれないですね。「独裁体制から民主主義へ」ではあまりそうしたことに触れていませんが、「勝利は祝わなくてはなりません」とあり、節目節目では、たとえ当局から睨まれる心配があっても、結果を残した仲間たちをきちんと認めてあげようということを書いています。「文化=政治」は一番こうしたことに敏感だと思います。エイズ感染者・患者たちが行ったACT UPという活動がやがて、奔放なセックスやドラッグに対して批判的になることから、保守化してしまい、「精液の味を知ることができなくなった」ゲイたちが登場することに対して同情的に書いています。もともとはゲイは快楽主義を追求するという側面もあったそうで残念ですね。他にもリクレイム・ザ・ストリート運動では楽しそうにハイウェイや道路を選挙して、アスファルトを掘り返して木を植えたり、パーティをしたりという描写に事欠かないですね。毛利さんの叙述に従えばかなり楽しそうに活動をされています。

だいたいこんな感じでしょうか。

 まとめると新しい左翼運動は、服装などを抗議手段として効率的に使った運動であり、非暴力を行う目的は自分たちの行動をより多くの人に認めさせるためであり、さらに自分たちだけでははなく多くの人も悩んでいたり、苦しんでいたりする状況を知ることができたり、目標が達成することができれば精神的に得ることはできる、というものでしょうか。

 いいことづくめに見えますが、一方で、警察や他の組織からの襲撃や拘束を受ける場合もあり、そうしたことにたいしては批判的になるともに、用心しないといけないとは思いますが。

 何か行動をしたい、といった場合、練りに練って考えるのか、それともすぐ行動しようとするかによって運動そのものも変わる可能性がありますね。計画的な方がより反体制的であり、すぐ行動する方は違法性が少ないのかもしれないですが、それでも状況に合わせてものを考えた方がいいと思います。